『愛情』
いよいよ気道が狭くなり、私の口からはヒュー、ヒューと木枯らしのような息が鳴った。
特にそうしたい訳でもないのに口が大きく開く。身体は生きるために必死だ。苦しい。けれど、私は今、これまでに無いほどの幸福を感じて泣いていた。
私の首を締め上げているのは、世界一やさしい彼の指だからだ。
──疲れた。
ぽつりと、零してしまった。その呟きに彼は静かに頷いた。悲しげな微笑が脳に焼き付いて離れない。今まで誰にだって、こんなにやさしい瞳で見つめられたことは無い。
「終わりにしようか」
そう言ってくれた。
溢れるほどの愛情に満ちた声。その答え。同情も躊躇も一切無く、共に終わりへ歩んでくれる。嬉しくて幸せで堪らなくなり、彼に抱きついて泣きじゃくった。
それから、天国で式を挙げようと約束をして、婚姻届に印を押した。
11/28/2021, 3:13:34 AM