ミヤ

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"静かな情熱"

88鍵のピアノの前に座った貴女が鍵盤に触れる。
軽く指を慣らした後、目を閉じて深呼吸をひとつ。
再び目を開いた貴女が指を振り下ろすと同時、目の前に火花が散った。

指先が鍵盤の上を勢いよく走ると共に焔が燃え拡がるような感覚に襲われ、静かだった部屋が真っ赤な業火に染まる。息苦しい程の赤の中で、一心に音を奏でる貴女だけが白く浮き上がって見えた。

僅かにタッチが乱れた瞬間、ピタリと音が止まり、全ては幻と掻き消える。
口を真一文字に引き結んだ貴女は、弛むことなく再度鍵盤に指を滑らせた。

どうしても弾きたい曲があるのだと、貴女は語った。
納得するまで何度も繰り返し続けられる演奏には、静かに燃える情熱が込められていた。

4/17/2025, 6:15:04 PM