烏有(Uyu)

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滑り込むように地下鉄の電車に乗ると、イヤホンを耳にはめ、いつものようにアプリを起動。音楽再生。
ひしめき合う車内でやっと居場所を見つけ一息つくと、自動シャッフル機能で、懐かしい曲が聴こえてきた。
1本の指で紡がれているであろうピアノの旋律が4小節ほど続いたかと思うと、ギターの力強い音色が登場する。

制服を来て、ガラガラの電車に揺られながら、この曲を聴いていたことを思い出す。
狭い世界の人間関係や、勉強のこと、親とのこと、今思えばあまりにも青すぎる悩みではあったけれど、少し息苦しかったのはきっと、制服のリボンをきつく締めすぎていたからではなかったはず。
美しくもやや無機質に思えるメロディーが、あの頃の切なさを思い出させて、胸がキュ、と締めつけられる。
田んぼや木々に囲まれた田舎道を歩きながら流した涙は、今の私にとってはあまりにも尊すぎる。
今の私は何を思って泣くのだろう。あの頃の私は何を思って泣いていたのだっけ。
もうすぐ5分が経過しようとしている。
不思議なものだな、たったの5分間で、あの頃に引き戻されたような感覚に陥るなんて。
タイムトラベルを終わりにするつもりで、次の曲を再生した。

17.過ぎた日を想う

10/7/2024, 1:20:55 AM