黒山 治郎

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洗いたての色を忘れた清潔なシーツ
その上を這う点滴や呼吸器の管
鎮静剤が余程効いているのか
身動ぎもしない私の娘は
浅い呼吸だけを繰り返している。

穏やかに閉じられた瞼は震えることも無く
呼吸器で覆われた口が動くことも無い
娘はベットの上で過ぎた時間も知らず
夢すら見れずに、それでも生きていた。

貴女を追い詰めたのは私だ。

産めない身体だとは知っていても
子供がどうしても欲しかった。
子供を抱いて愛してみたかった。

だから、貴女を引き取った。

血の繋がりなんてなくても
こんなにも笑顔の可愛い貴女なら
生涯、娘として愛せるって思ったから…

現に私達は紛れもない家族だった。

だから、慌てて…
そう、無理に話す事なんてない
あの子がせめて言葉を話せる時までは…
いや、あの子が話を理解出来る歳になるまでは…
いや、いや、あの子が娘を持てる歳までは…

猶予なんて、本当はなかった。
あの日、貴女が取り乱し目前に突き出したのは
私が隠し通してきた養子縁組の用紙で
貴女は私を嘘吐きだと裏切り者だと蔑み
何も言い返せない私を後目に
自室へと駆け出した。

そして、登りきる筈の階段を

踏み 外したんだ。

……………ーーーーー

私が、黙っていたから。
私が、貴女を産めなかったから。
私が、あの時に抱き留められなかったから。
私が、私は、私…。

わたし、ね。

他の誰でもない貴女に
“お母さん”ってもう一度
呼んで欲しいだけなのよ…。

けど、まだ貴女は許せないのよね。
大丈夫よ、ずっと待ってるから
この病室から出られなくなっても
目を覚ました貴女を
今度は、抱き留められるように。


ー 病室 ー

8/2/2024, 1:42:38 PM