#忘れたくても忘れられない
京都の千本今出川にある、カステラ屋さん。
子供の頃、祖父母の家を訪ねる時のお土産は、いつもそこのカステラだった。
幅一メートル位ありそうな、四角い木箱に入ったカステラが、奥から次々運ばれてきて、スッスッと目の前でカットされる。
表面はつやつやの茶色、中は目の覚めるような黄色、その美しさをうっとり眺めた。
嬉しいのは小さな紙箱に、お試し用の切れ端が貰えたこと。
お試しを全部食べても、ああこの十倍くらいあったらな…といつも思っていた。
祖母は持って行ったカステラを、すぐ仏壇に供えてしまって、絶対出してくれなかったのだ。
京都を離れてずいぶん経つが、どんなに美味しいと評判のカステラを食べても、あのカステラが忘れられない。
そうだ、お取り寄せだ!と思いついたのは、つい数年前のことである。
もはや私は大人、どんなに大きなカステラでも買えるくらいの財力はある。
そして…食べました。
忘れたくても忘れられなかったカステラを、思いきり。
思い出補正かと心配だった味は昔のまま、本当に美味しくて、これ…これなのよ…と涙ぐみそうになった。
だけどどうしたことか、以来あのカステラへの執着は、ばったり失くなってしまった。
きっと子供の頃の思いが満たされて、私はすっかり満足してしまったのだろう。
10/18/2024, 2:38:08 AM