いぐあな

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300字小説

夜の恩人

 昔、目の見えない女の子が、森の奥の吸血鬼の根城にさらわれたことがあった。女の子は城の優しい少年に大事にされていたらしいが、夜毎に流れる女の悲鳴と血の匂いに怯えていた。そして、いよいよ彼女の番となった夜。少年は彼女の手を引いて城から逃げ出した。森の中を夜通し走り、頬に朝日の温もりを感じたとき、握っていた少年の手は淡雪のように解けてしまったという。

「彼女の側には小さな灰の山だけが残されてました」
 若い男は私に話をした後、その灰を葬ったという森の入り口にある墓に呼び掛けた。
「彼女は見えぬままも、村一番の縫い物上手の娘に育ちました。そして、明日、僕と祝言をあげます。僕が貴方の分も彼女を幸せに致します」

お題「朝日の温もり」

6/9/2024, 12:03:24 PM