人々が争い、血が流れ。
大地が怒り、全てが飲み込まれ。
成れの果てとなったこの土地は、かつて世界屈指の巨大都市と呼ばれていたそうだ。今では一面更地で、人の痕跡をかき消すほど自然に覆われている。
この土地の唯一の生き残りだろうと、僕たちは自覚があった。
他の生物に襲われないように、息を潜めてこれまで生きてきた。悲しいことや情けないことなど醜態はお互いに晒した。それでも尚、慰めて、励まして、愛し合ってきた。たった二人ぼっちの、人間だ。
他の生物が寝静まった頃、僕たちは地面に隣り合って寝転がった。目の前には満天の星が広がっている。
君が言う。
「生き残りがあなたでよかった」
僕は、返す言葉が出てこなくて、代わりに君の手を握った。
「何もかも失くしたけれど、あなたがいたから生きられた」
「僕もだよ」
「辛くて、寂しくて、悲しくて。どうしようもなかったけれど、あなたとの日々は毎日が発見で、とても楽しかった」
君が僕の手を握り返した。僕はたまらない愛おしさゆえに、衝動的に君を抱きしめた。
「愛してる」
「僕も愛してる」
君の腕が僕の背に回った。より距離が近づいた。
僕は静かに目を閉じた。腕の中で彼女の体温が感じられない。その事実に目を背けたくて、固く閉じた。堪えきれなかった涙が、顔を伝って大地に流れた。
次に日が昇ったら、僕は一人ぼっちになる。
『二人ぼっち』
3/21/2024, 12:40:06 PM