【こんな夢を見た】
他人の夢の話ほどつまらないものはない。
だから私の夢もきっとつまらない。
違う夢の話をしよう。
私が子どもの頃の夢は漫画家であった。
周りの子たちはプロ野球選手、ケーキ屋さん、先生、花屋さんなど、いかにも子どもの夢という感じであった。
成長した彼らを知っている私にしてみれば、鼻で笑うレベルである。
私は漫画家だ。
周りに漫画家になりたい子はいなかった。
この学校にひとりしかいない夢を見ている私を、なんだか誇らしく思った。
『ドラえもん』を読み藤子・F・不二雄に憧れた。
まともな奴はのび太に憧れるものだ。
ドラえもんがいるだけで奴はなにもしていない。
すべての小学生の羨望のまなざしである。
私は違った。
こんなアイデアを持ち、話も面白い。
色んな作品を描いている。こんな人になりたい。
その夢は打ち砕かれる。
ウキウキで藤子・F・不二雄の伝記を読んだ私は驚愕した。
漫画家は超絶ブラックであった。
迫り来る締め切り。睨み顔の編集者。浮かばないアイデア。売れない作品。眠れないジレンマ。
天才でもここまで追い込まれるのだ。
なにもしていないのび太は、こんなに苦しんだ人から生まれたのだ。
のび太はぐーたらと何を呑気にしている。作者がいなければ貴様も危ういのだぞ。
そりゃドラえもんにすがりたくもなる。
私は漫画家の夢を諦めた。
小学5年生のときである。
卒業式のスピーチでは、仕方がないので漫画家になりたいと言い張っていたが、なりたくねぇよと心の底では思っていた。
大人は子どもに夢を見せたがる。
実際の大変さ、汚さは伝えることはない。
それが悪いとは言わない。
つらくても大変でも、なりたいと胸を張って言えるのならば、それは大きな夢だ。
私は早々と夢を諦めたが、諦めなければもっと苦しい現実があったのだと思う。
今の私は私でつまらない毎日を送るが、『ささやかな幸せ』という夢を見ていた将来の姿でもある。
誰もが偉くなる必要もないだろう。まあよい。
1/23/2024, 12:36:51 PM