涙雨

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無色の世界

ーコツ…コツ……。
たどり着いたのは、大きな鳥籠だった。


「ねぇ…、起きて。」
誰かが私に話しかけているようだ。
うっすらと目を開けると、そこには心配そうに覗いている翡翠色と陽炎の瞳があった。
「あっ、起きた。よかった…、このまま起きてくれないのかと思ったよ。」
しだいに鮮明になってくる。
ひっそりとした暗闇に、ちりばめられた星空。
黒髪で、先度見た瞳をした少年がいた。
「…?あなたは…誰?」
彼は寂しそうな顔をしている。
「…そっか、また君は覚えていないのか…。」
「…?」
不思議そうに見つめると、彼はふふっと微笑んだ。
「まぁ、これは一旦置いとこう。また、思い出してくれるまで待つから。」
「…そう。分かった。」
「よし、じゃあそろそろ行こう?」
彼は手を差し出す。
「どこに行くの…?」
彼の手を取りながら尋ねる。
「あそこだよー!」
彼が指さしたのは、暗い星空。その奥にある強く輝く星。
「あれは…。」
「君が進むべき場所とも言えるかもね。」
彼は悲しそうな顔をしていた。
彼と共に歩み始める。


〝あら、あの子じゃない。〟
〝ホントだ。また来たのね…。〟
〝勘弁して欲しいわよ。ここはあの子にはふさわしくないわ。〟
〝〝ほんとそうよね〜。〟〟

進む度に様々な声が聞こえる。
「君はあんな奴らのことなんて気にしなくていいよ。君は、素敵な人なんだから。」
彼は、怒っている。私のために。
(なぜ?)
スタスタと歩みを進める。

ー暗闇を通り抜け、真っ白な雲が漂う空間にたどり着いた。
「さぁ、あと少しだよ。」
彼は、スタスタと歩みを早めていく。
彼の手を掴んだまま、引っ張る。
「まって…。私は、これ以上進めない。足が動かないよ…。」
足元が沈んでいく。足は鉛のようになったのか、
1歩も動くことが出来ない。
「…、またか…。」
(また…?)
「ううん、なんでもないよ。じゃあ、僕が連れてくよ。」
彼は、私を抱える。
「…、ごめんね?ありがとう。」
彼の手に少し力がこもる。
「君だから、いいんだよ。」
悲しそうに微笑んでいる。
先程とは異なり、少し遅く歩き始める。


「さぁ、着いた。ここが君の記憶が眠っている場所。」
たどり着いた先には、少しモヤがかかっている。
大きな建物のような部分が、ところどころ見え隠れしている。
「よし、進むよ…。」
「…うん。」

建物らしきものに近づくほど、モヤが消えていく。
上を見上げると、それは籠のようなものに形を変えていく。
それは、鎖が溶けかけ、黒く塗りつぶされたインクのような液体が垂れている。
「鳥…、籠……?」
目の前に、大きな時籠がずっしりと構えている。
「これは、君が記憶の残骸を閉じ込めるために作ったんだ。」
「そうなんだ…。」
「さすがにこれだけじゃ、思い出すことは出来ないよね…。」
彼はカバンから、鍵を取り出す。
澄んだ透明のガラスに、青い宝石が散りばめられた鍵。
鍵をさすと、瞬く間に鍵は黒く淀んだ色に染まる。
重い扉がゆっくりと開く。
「行こう…。」
彼はぎゅっと抱きしめ、扉の中へと進んでいく。
「これで、君の記憶が全て…戻るといいな…。」

彼らが進んだあと、扉はゆっくりと閉まり、
〝ガチャン〟と大きな音を立て鍵がかかる。
モヤが広がり、スウッ…っとその場所から鳥籠は
消え無くなった。


〝あーあ…。いなくなってしまったわ〟
〝大事にしていたのにね〟
〝彼らはどこから間違っていたのかしらね…〟
〝まぁ、救いは訪れないわよね。あの子には…〟
〝〝無色がお似合いよね〟〟
クスクス……
クスクス…
クスクス


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こちらは、個人で書いている小説のほんの一部分。そして、少し内容を変えたものです。

4/19/2024, 9:30:46 AM