月下の胡蝶

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お題《窓越しに見えるのは》


季節のない国で。


死神様がつくってくれたもの。


ゆったりとした深い森色の外套を風に揺らしながら、死神様は色彩の見えない口調で、とあるものを指さす。


そこにあったのは三日月の窓。


「これは月灯りの欠片を集めてつくった魔法の鏡だ。月のあるひとときだけ、どんな風景でも窓に映せる」


「……どうして私に? 私には、死神様に差し出せるものがなにもありません」


「娘よ。お前はオレに、水をくれた。誰もがオレを恐れ避けてゆくのに――価値のあるものを、お前はくれた」


色彩は相変わらず見えないが、それでも少女には見えたような気がした。微かに。



「はい、ありがとうございます。大切にします」


花の咲いたような笑顔を浮かべると、死神様はふわりと頭を撫でた。



その次の夜。


白銀の三日月が世界に淡い光を落とす夜、少女は三日月の窓をつかった。



そこに映し出されたのは、冬に咲くという希望の花。


はじめて死神様が少女にくれた花。




風に揺れる可憐な白い花弁をつけた花の海に、死神様もいたような気がした。――今度はどんな花をくれるのだろう、それだけで少女はどんなに世界が残酷でも生きていけるような、そんな気がするのだ。




季節のない国で。



私は死神様と出逢えた、あなたという大切な季節に。


7/1/2022, 11:33:38 AM