「君と見た景色」
病床に伏してからというもの、終わりゆく生命を惜しみ、これまで歩んできた人生を回顧する日々が増えた。
思い返すのは仕事のことばかりで、我ながらうんざりしている。
ふと、妻との結婚生活を振り返ってみる。
妻は大人しく私の後ろをついて来てくれるような良妻賢母な女性……ではなかった。
快活で、私の小言などほとんど聞かない。幾つになっても天真爛漫な女性だった。
ある時、退屈だからと山登りに連れて行かれた。私は生来、体力のある方ではなかったので、苦痛でしか無かった。
やっとの思いで山頂まで登りきった時、妻は一言「生きててよかった。」と一筋の涙を流した。
あの時、私はそれを見て、山頂からの絶景よりも、力強く光り輝く君の生命が美しくて涙が出た。
3/21/2025, 11:23:53 AM