目を覚ます。
目前にあるのは白い部屋。白い、狭い部屋。
狭い部屋の中で、僕は生まれた。
そして、生まれてからすぐ悟った。
僕の使命はこの狭い部屋の主人になることだ。
この狭い部屋は、本当に何もない部屋だ。
殺風景で、見渡す限り一面の白。
四角い長細い圧迫感のある、壁がすぐそこに見えるのに、どこまでも永遠に広がっているような、そんな部屋。
誰も気に留めない。
誰も意識して目を凝らさない。
でも、僕は確かにそこにいたし、狭い部屋も確かにここにある。
多くの目線が、僕と部屋を通り過ぎていった。
みんな足を止めずに急いで次に向かう。
僕の部屋にいるのはほんの一瞬。
その一瞬が、僕にとっての唯一の変化で、楽しみだ。
この部屋の存在意義はなんなのだろう。
狭い部屋の主人として、そんなことを考えたこともあった。
お隣の部屋を真似して、一秒でも長くいてもらうために、喋ってみたこともあった。
僕の部屋を通り過ぎてゆく目線に声をかけたこともあった。
「 」
その度に声は染み込むように、狭い部屋の壁に吸い込まれていった。
ある日、誰かがこう言った。
「この隙間に声はない。音はない。色もない。ただの狭い、ポカリと空いた空間。でもそれこそに意味がある。趣がある」
…正直僕には、どういうことか分からなかった。
何もない空白の部屋にいる僕には。
でも、僕の部屋は褒められたらしい。
どう褒められたのか、よく分からないけど誇らしい。嬉しい。
だから、僕はこれからもこの狭い部屋にいる。
この部屋の主人として、一瞬で通り過ぎる目線をお迎えする。
それが僕の使命。
でも、狭くて何もないけど、僕にとっては自慢のお部屋。
だから、もし僕の部屋を見かけたら、じっくり見ていってほしいな、と思ったりもする。
もし良かったら、目の前のあなた。ゆっくりしていってね!狭い部屋だけど。
ノート、テキストボックス、チャット、Word…
僕の部屋は狭いけどたくさんあるから。
もし行間にある空白を見つけたら。
そこに僕はいる。
「沈黙」「余白」「余韻」「区切り」…いろんな名前で。
だからもし見つけたら、ちょっと目線を止めて、ゆっくりしていってくれると嬉しいな!
そんなことを今日も一人で考える。狭い行間の余白の、狭い部屋の中で。
奇跡みたいな夢だけど。いつか僕のこの空白の考えが、狭い部屋を出て、広い世界を見れたら素敵だな。
狭い部屋の中で、僕は夢を見る。
今日も、明日も、明後日も。
言葉が、会話が、お話が、存在する限り。
6/4/2024, 12:15:27 PM