遠くから、音が聞こえた。
ああ、また誰か来たな。
それは別にいいんだけど、邪魔しないで欲しいな。
しばらくして、ほんのりと甘い匂いが漂ってくる。
ああ、風がたった。
どうせまた「彼女」が来たんだ。
目を閉じたまま、無視を決め込む。
しばらくして、その足音が草地を歩くものだと気づく。
足元に草の匂いが広がり、嫌にも鼻につく。
足音は僕の頭の後ろで止まった。
「……またお昼寝?」
「……………」
そうだったら、なんだと言うのだ。
そろそろ疲れた。
毎日のように君がここに来るのは…。
僕だってたまには穏やかに過ごしたいのだけど…。
睨みつけても、彼女は引かなかった。
「そんな目で見ないで。せっかくのお顔が台無しだわ」
「……みんな同じ顔だろう?」
「そうかしら?私はみんな個性があると思うわ」
「せいぜい違いは番号くらいだろう?何が違うっていうんだ」
「うーん……。たとへば、あなたの目は少し細いわ。優しい目をしてる。それから、暖かい」
「……………聞いてないよ」
「ふふっ。うそばかり…」
………………バカ。
相応しい罵倒は思いつかなかった。
僕はそのまま黙りこくって横になる。
彼女はいつも、隣に座っている。
ただそれだけだ。
それだけの時間が、僕たちの唯一の日課だ。
4/29/2026, 5:41:17 PM