まさる

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僕のクラスには
「一を聞いて十を知る」
神童と呼ばれる子がいる。
まわりの大人からはいつも
「スゴイ子だ!将来が楽しみだ!」
と、期待と羨望の眼差しを向けられている。

そんな神童といつも一緒にいる子がいた。
「なんであいつが?」
と、僕も含めて
クラスのみんなは不思議にそう思っていた。

当初、神童が楽しそうにその子と話すのを見ていた同級生は
「さぞ面白い話をするヤツなんだろう」
と、期待してその子に話しかけた。
しかし、
特に面白い話をするわけでもなく、
むしろ気味悪がっていった。

その子は勉強も運動もできなかった。
いつも気だるそうで暗い顔をしていた。
「神童が心の広い人格者だった」
ということでまわりは納得することにした。

ある日、その子が自殺してしまった。

みんなビックリしていた。
近寄りがたい子ではあったけれど、
イジメられていた訳でも、
家庭環境が悪かった訳でもなかった。

クラス一同、通夜に参列した。
僕はトイレに寄ってから帰るところだった。
途中、遺体が安置された棺桶をじっと一人見つめる人影があった。
神童である。

「もっと君と話がしたかった」
神童は悲しそうにつぶやいた。
「自分は一を聞いて十を知る神童なんて呼ばれてるけど、君は一を聞いて千を知るひとだったからな…」

子供の頃の僕は
神童が何を言っているのか分からなかった。今も分かったわけではないけれど、
「なんとなく引っかかる」
ような感覚をもつようになった。

「なんとなく引っかかる」
とは、つまり疑問をもつようになったことだと思う。

人一倍に勉強や運動ができるから天才なのだろうか?
あの自殺した子は本当に勉強も運動も苦手だったのだろうか?
天才の中の天才はどんな存在なのだろう?
仮にこの世の全てを理解した人間がいたとして、その人間は人間としてどういった行動をとるのか?
まだ成熟していない子供の心と精神で全てを悟るとどうなるのか?

凡人の僕には分からない。
しかし、
同じ人間でも見ている世界が違うことを知った。
「知らぬが仏」
とはよく言ったものだ。

6/6/2025, 12:43:21 AM