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声が聞こえる 〜逆行〜

時間の彼方からか、どこか得体のしれない内なる声のような、地鳴りのような山の音のような不思議な声が聞こえる。

十五夜を過ぎた彼岸前の静かな宵風を切りながら自転車のペタルを踏む頬をかすめる涼やかな風、空には白い満月、月明かりは歩道を照らし脇に咲く彼岸花を浮き上がらせていた。宮藤は無心で何時もの帰路の道、自転車を走らせていた。すると前方に人影駅に続くその道は宵のうちは田舎とはいえ、人通りはあり両脇も民家が並ぶ為に明るかった。その日も前方から見えてくる人影をさして気にも止めてはいなかった。

だが、しかし近づいてくるほどに、どうも様子がおかしいと思うように宮藤はなっていた。

先程からシャンシャンシャンという鈴の音のような音が、その前方の人影から聞こえて来るのである、月明かりはやけに、その人影を浮き上がらせていた、やがて、その人影が男であることに気づくと、スポットライトのように男を浮き上がらせている月明かりが更に光を増した。

宮藤は思わず目をこらした、青白い月明かりのスポットライトに浮かび上がった男は、2024年に生きる宮藤は映画やドラマでしか見たことのない、出兵する兵隊の格好をしている様に見え、思わず「えっ」と声が溢れた、全く映画やドラマの中に生きる兵隊が歩いている、リュックを背負ってご丁寧にアルミの水筒までさげて、それがリュックにつけられた金具と触れ合い、その兵隊が歩くたびシャンシャンと鈴のような音を立てていたのだ、宮藤はあたりを見回した、人影は他に見当たらない、何時もならこの時間帯は通勤通学駅を使う人影に幾つもすれ違うのに、今は前方向かって来る兵隊と自転車に乗った宮藤だけなのである。しかも、街並みも見慣れたものとは少し違うようだ、次の瞬間つい早急までアスファルトの上を自転車を走らしせていたはずが、砂利道になっていることに気づくと、とてつもない不安と恐怖の感情が心に過り身震いをした。兵隊はスポットライトを上から当てられているような格好で今まさにすれ違うところまで来ていた。

すれ違った時、微かに兵隊がこちらを見て微笑んだ気がしたが気づかないふりをしてやり過ごすのが精一杯だった、必死で砂利道を自転車を
漕ぐが、まるでスローモーション出会いはスポットライトあびたスローモーション軽い目眩誘うほど、、ではなく、シャンシャンシャンという兵隊が歩く度に聞こえる音と、「うー、うー」という呻き声のような声が聞こえた。

間違いないと宮藤は確信これは「逆行転生」ってやつだ! この街並み、あの兵隊2024年のものではなく、宮藤の心理が何かを感受して過去の時間軸に精神がトリップし、過去の自分に乗り移るというシュチュエーションだ。

思えば、その日は彼岸の入で宮藤の父の祥月命日、宮藤は昔聞いた父の父、祖父の出兵の日、宮藤の父は自転車を漕ぎこの道を、その兵隊姿の父を追いかけ走ったのだと聞かされたことを思い出した。

不思議と早急まであった恐怖心は無くなり、言いしれぬ郷愁を感じた。

「そこに、居ますか?お祖父さん」

宮藤は自転車を止め振り返ったが、兵隊は居なかった、道はアスファルトに変わっていた。

どこからともなく、祖父と父の笑い声が聞こえる、「かつがいでくださいよ、お祖父さん、父さん」 宮藤は呟いて前を向き直して、また自転車を漕ぎ出した。


令和6年9月23日

心幸

9/22/2024, 1:50:03 PM