ここは、どこだろう。
見慣れた通学路、曇ってろくに見えもしないカーブミラー。確かに毎日見ていた景色のはずなのに、何かがおかしい。
肉屋の横の路地裏。あったはずの鉢植えが無い。
八百屋の飼い猫。あいつは黒猫じゃなかったか?
小さな疑念が積み重なって、それは確かな確信に変わっていく。
俺の今居るこの世界は、俺が居るべき世界ではない。俺が今見ている街は、家は、部屋は、俺の物ではない。今まで信じていた世界に裏切られた俺の頭の中は、もうぐちゃぐちゃだった。意味がわからない。どうして?元の世界は?感情の濁流に飲まれ、俺は押し潰されそうになる。俺はいつからここに居た?いつ紛れ込んだ?ここでの生活は嘘だったのか?今の俺の正体は、何なんだ?疑心暗鬼になって、自分の存在の輪郭がぼやけていく。何もかもが信じられなくなって、もう何も見たくなくて、目を瞑った。
それから、どうやって家に帰ったのか、覚えていない。気が付いたら布団の中に居て、気絶するように眠っていた。目が覚めたら、俺の覚えている世界に戻っているだろうか。僅かな期待を抱いて眠ったことだけを、明確に覚えていた。そんな期待は、朝起こしに来た母の顔の黒子に気付いた瞬間本当の意味で夢になってしまったが。
もう、感情がめちゃくちゃで収拾がつかない。今すぐにでも叫び出したいが、感嘆符程度ではこの感情をまとめられない。
脳内を満たしていく諦観と、ごく僅かな絶望が、俺をこの世界に縛り付けていることを、俺は知らなかった。
テーマ:!マークじゃ足りない感情
8/15/2025, 2:13:25 PM