→短編・感謝という名の……。
雑誌をパラパラめくっていると、懐かしい顔が飛び込んてきた。高校生の時に付き合っていた彼女だ。チャーミングな笑顔は昔のまま。
宇宙物理学の教授としてインタビューに答えている。正直、彼女と宇宙物理学がどうにも結びつかない。僕の記憶の中の彼女は天然な人だった。
「宇宙旅行するなら、昼間の出発がイイなぁ」
唐突な言葉のその理由を問うと、彼女はエクボ付きの笑顔を浮かべ首をすくめた。外国のテレビCMの出演者みたいな愛嬌が可愛らしい子だった。
「だって宇宙探索するんなら、この大空みたいな青い空のほうが色々と遠くまで見えそうでしょ?」
彼女は続ける。「前から不思議だったんだけど、どうして宇宙の写真って、夜の写真ばっかりなのかな? 昼間に撮ればいいのにね」
抜けるような青空のような、どこまでも続く真っ青な宇宙を想像してみたがピンとこなかった。
「宇宙は黒いよ。昼も夜もない。常識じゃん」
僕たちの仲はあまり長く続かなかった。
インタビュー記事の彼女は言う。
「学生の頃、宇宙も昼間は明るいと思っていて、その話を同級生にしたら変な顔されちゃって。でも、そこから宇宙への興味が広がっていったんです。だから最終的にはその人に感謝ですね」
それって、僕のことか? あれ? 同級生枠??
「ところで、宇宙の色は何色かご存知ですか? 答えはベージュ色です。海の色が青くないのと同じように、宇宙も黒くはないんです」
彼氏枠から外されるくらい、めっちゃ怒ってたんだなぁ。そりゃそうか。
……聞きかじりの常識なんて、振りかざすもんじゃないなぁ。
テーマ; 大空
12/22/2024, 5:25:21 AM