つい先日までピンピンしていた君が2日続けて出校日を休むなんて…あ、もしかしてサボり!?いや、でもそんな事をする子じゃないし、じゃあやっぱり風邪?でも考えづらいよな…
隣の席に視線を落としてもいつもみたいに寝てる君はいなくて静まり返っている。変態だって思われたくないけどふわっと香る君の匂いもなくて本当に存在がぽっかりとなくなっちゃったみたい。こういう時、心はやけに素直で君の前では絶対言えないけど「寂しい」なんて思ってしまう。
「ねぇ!ちょっと、あんた見た?新聞にも載ってたしアイツん家の前にもアレ立ってたけど…」
友達がこんなに息を切らして走ってくるのは珍しい。それにしても新聞に載ってるとかアレとか一体何の話をしてるのか。
「ん?何かあったの?」
「やっぱ知らないのか…ほら、アイツのおばあちゃんが亡くなったらしくて。アイツが休んでるのは忌引きだからだね」
「…………え」
それ以上何も言えなかった。
家に帰って自分の部屋に入ると私はつくづく自分勝手だと感じた。君が今相当辛い思いをしているのにも関わらず「会いたい」だの「寂しい」だの自分のことばかりで。ごめん。本当にごめん。でも君には会えないし、抱きしめてあげることも支えてあげることもできないよね。なんて思いながらただひたすらボーッとしていた。
ボーッとしていると不思議なものでふと君との出会いを思い出した。思い出したという程でも無いけれど、初めましては保育園の頃だった。やっぱり最初はお互いガキで未熟すぎた。私は君が大嫌いでウザくて。小学生になるとクラスが同じでも話す機会も関わる機会も減った。高学年になって委員会が同じになった。児童会(生徒会みたいなもの)に入ったくせに何にもしない嫌な奴。印象はあの頃と変わらなかった。ギスギスした雰囲気が微妙に漂っていたのは今でも覚えている。中学に上がってクラスはまた一緒になった。でも中学1年になっても男子は変わることを知らない。お猿さんみたいにギャーギャー騒いで問題起こして迷惑かけてばっかで。そんな私も君に限界がきて1度ぶちギレたことがあった。
「…ったくうるせぇなぁ!教室にいる時ぐらい静かにしろや!走り回んな、邪魔じゃ」
声を荒らげて放った怒り。それは私が家以外で初めて怒った時だった。驚いた君の顔も悪くはなかったよな。
中学2年はクラス替え。それでもまた君と同じクラスになってしまった。もうあれ以来関わることもないと思っていた。2年後半になって席が隣になったことや同じアニメを見ていたことがきっかけで少しずつ話すようになった。知らないうちに君が私との距離を縮めるようにもなった。そうだね、君はあの時からもう変わり始めていたんだ。成長して子どもじゃないような、でも幼さが残っているような。それでも大人びたことしようと背伸びをしていたり自然に男前になっていたり。あの頃とは随分と変わったね。席替えをしても何度も何度も…毎回私の隣を選んでくれたよね。頭もポンポンって撫でてくれたよね。筆箱も交換しに来たし手も握ってくれたよね。いつの間にか変わってしまった君は気がつくといつも私の隣にいた。
そんな君のことを私は好きになってしまった。ただそれだけの事だって思いたかったけど、気づいた途端に思いは溢れ出た。いつもの見慣れたはずの君の姿が愛しくてたまらなくて。文化祭で君と手を繋いで踊ったフォークダンス。君の冷えた手を握って話しながら踊ったよね。気づいてなかったかもしれないけど、私は君と踊った時だけ誰よりも近づいて手も強く握ってたんだからね。君のことをいつでも抱きしめたくて仕方なくなったのも毎日変わりないよ。もう知らない感情ばかりが君に溢れ出て仕方ない。
沢山の思い出が。変わってしまった君が。今までの私を変えてしまった。変わらないものなんてない。だから君が私に興味なんて無くなっちゃうこともあるかもしれない。変わる。それはすごく私にとっては怖いこと。でもそれを恐れなかった君に私は救われた。だから私も恐れないで君にちゃんと向き合うことに決めたの。卒業するまで。それがタイムリミット。逃げずに待ってて、お願い。
題材「変わらないものはない」
12/26/2024, 1:33:36 PM