今日のデートは恋人の青年のリクエストでレトロな喫茶店に来た。
開店より少し前に到着していたけれど、既に行列が出来ていて、開店してから少し時間を置いてようやく入りテーブルに案内される。
「季節的に気候がちょうどいいから、待つのがそんなに苦じゃなくて良かったね」
「はい! 思ったより人が並んでいたのは驚きましたが……」
周りを見てみると女性客の方が多く、みんな手元に来た食事や飲み物にカメラを向けた後、それぞれを楽しんでいるようだ。
自分たちも今日の目的はハッキリしている!
店員さんと目が合うと、静かにテーブルの傍に来てくれた。
「ご注文をおうかがいします」
店に来る前からメニューを決めていたから、青年はピースを店員に向ける。
「季節限定のクリームソーダ、ふたつ!」
「季節限定のクリームソーダ、ふたつですね。以上でよろしいでしょうか?」
「はい!」
そう、ふたりの目的はクリームソーダ。
このお店のは季節限定でクリームソーダの味や見た目を変えていると知り、今の季節のクリームソーダを飲みに来たというわけだ。
「シックで素敵なお店ですね」
「そうだね、クラシカルな感じもあって、落ち着くかも」
「家とは違うくつろぎですね」
「そう、それ」
ふたりで談笑していると、華やかな香りが彼女の鼻をくすぐった。柑橘系の香りだろうかと、辺りを見回す。
「とうしたの?」
「なんか、いい香りがして……」
それは近くのテーブルに置かれた紅茶の香りだった。
甘やかであり、華やかさもある。珈琲とは違った香りに気持ちが奪われた。
くすり。
青年が彼女を見て笑う。その声に慌てて振り返った。
「気になるなら頼もうよ。俺もこの香り気になるよ」
楽しそうに笑ってくれる青年は、手を挙げて店員を呼ぶ。すると香りの話しと合わせて聞いてみると、アールグレイの紅茶のようだった。
そこから聞いてみると、この店はクリームソーダもそうだが紅茶も力を入れている喫茶店で、アールグレイだけでも数種類があると説明を受けた。
そうしてふたりは紅茶のメニューを見て悩み出してしまった。
「俺、違いがよく分からないから一般的……あ、もしくはオススメの紅茶を……あー……」
視線の先にはふたりが先に注文していたクリームソーダを持った店員がいた。
「……飲み終わったらゆっくり選んで頼もうか」
「そうですね」
テーブルに置かれるクリームソーダを見てメニューを閉じる。
「まずは今日の目的、だね」
「はい!」
ふたりは冷たいクリームソーダに舌鼓をうちながら、幾度となく通り過ぎる紅茶の香りに誘われながら、優雅なひとときを過ごした。
おわり
一六四、紅茶の香り
10/27/2024, 12:24:05 PM