新品の鳥かごの中には
猫の人形の真似をした猫が入っていた
一瞬どういうことか理解に苦しんだが
ああ。何か事情があって時間を稼いでいるのだと理解した。
私の主人はというと、そんなことには気づかず猫を鳥かごから掴み出し放り投げたかと思えば
自分が飼っているカナリアを新品の鳥かごに移した。
私は床に倒れている猫にそっと近づき
寄り添うようにして横に座った
猫は緊張しているのか人形のふりをしながら小さく震えている
私がこの猫を守らなければ。私は思った。
それからというもの一生懸命に人形のふりをする猫をくわえて連れまわし、私の無邪気な主人に気づかれないように遠ざけた。主人は私がすっかり猫の人形を気に入って離さないと呆れたように家族に話している。
夕飯の時間になると、家の外に人の気配を感じた。
猫の主人が連れ戻しに来たのだなと瞬時に察した。
私はそばに置いていた猫を再度優しくくわえて主人に外に出してもらえるように頼んだ。
主人は渋々扉を開けて、帰りは自分で閉めるんだよとその場を去っていく。
玄関を出るとそこには黒い服を着た少女が待っていた。
私が口にくわえた猫を離すと、猫は素早く少女の元に駆け寄っていく。
猫との再会を喜んだ少女は私にお礼を言いながら、代わりにこれを主人に渡して欲しいと猫の人形を渡してきた。
私は渡された人形をくわて静かに家に戻った。
猫との別れに少し寂しさを感じつつも、新たに渡された人形は確かに鳥かごの中の猫にそっくりだった。
私はその日から猫の人形を肌身離さずくわえ歩いている。
7/25/2024, 2:47:39 PM