もう一歩だけ踏み出せば、君に手が届く。
……簡単に言ってくれるなよ。その一歩がどれだけ遠いか。
【もう一歩だけ、君の呼ぶ方へ】
「……」
ああ、でも、ためらっていたら、君が遠くに行ってしまう。たった一歩でいい。動け、僕の足。
「……」
君が僕の方を見ている。僕を待っているように見えた。まるで時間が止まったみたいに世界の全部がゆっくりになって、僕が踏み出さないと時間が進まないんじゃないか、なんて考えてみる。
「……やっぱり、僕もいくよ」
「!」
地面を蹴る音。浮遊感。目を見開いた君が、僕を見上げている。
屋上の柵を超えて、最初の一歩。人生最後の一歩。
ああ、やってしまえば、こんなに簡単じゃないか……。
8/26/2025, 9:40:08 AM