冬華(トウカ)

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僕は0から始まった。
感情も、思考も、何もなかった。

そこから、1にすることが、難しかった。

家族は僕にいろいろしてくれた。
お医者さんも全力を尽くしてくれた。

でも、0.1にすらならない。

みんなが諦めていたその時、君が現れた。

君は、何も欲しがることなく、何も強制せず、ただ隣にいて話しかけていた。

僕はその時、「疑問」という+1を持ったんだ。

『なんで、そんなに語りかけてるの?』

それを聞いて君は、とても驚いた後、笑っていたよね

そこからの僕は、今まで足してこなかった分を取り戻すかのように、時には掛け算もして、0の頃なんて嘘みたいな生活を送ってきた。


80年後、90歳になった。

「ごめんね、僕は、先に終わるみたいだ」
僕の1となってくれた君にいう
「何言ってるのよ、0に戻るだけでしょ、当たり前のことなのよ」
君は、不思議な人だった。何を言っているかわからないけれど、なぜかその言葉たちは、ストンと、腑に落ちた。

「でも、これだけは言いたかったんだ」
「なぁに?」
「僕の、1になってくれて、ありがとう。君には、感謝しても、しきれないよ」

これは、僕が思っていた本心だ。

「いいのよ、もう慣れているし。また次の時にも、その次の時でも、私が1にして、2にして、3にも、4にだってしてあげるから」

ほうら、不思議だ。でも、この言葉には、聞き覚えがある。なぜだろうな。

「だから、安心して、待っていてね。私が、あなたと一緒にいるから」
「いつまでも、いつまでもよ。約束するわ」

そう言って、手を握って、祈ってくれる。あぁ、なんで優しいんだ。この行為すら、僕に足し算をしてくれる。

「僕はもう満たされた。君のおかげだよ」

君はにっこりと笑って、「満たされたのは私の方よ」と、小さく呟いた。

だんだんと体がホワホワとしてくる。多分迎えがきたんだと思う。
僕と君は、見つめあって、微笑みあって。最後に涙を一粒流して、僕は目を閉じた。
「幸せだった…」
最後に言ったその言葉は、ちゃんと言葉だったのかな


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僕は、0から始まった。
何も思わないし、何も感じなかった。

今日は、公園のベンチに座って、何も感じないけれど、空を見上げていた。

「となり、いいですか?」

僕は何も答えない。それに苦笑した女性は、隣に座る。
「今日の空、綺麗ですよね」
僕は何も答えない。それを気にもせず、話し続ける。

この女性の雰囲気、口調、仕草に、僕は懐かしさを覚えた。

まぁ、どうでもいいか
それにしても、「何故」この人は僕に話し続けてるんだろう。

2/21/2024, 10:44:04 AM