「出ちゃダメ。
危ないわ」
「離してお姉ちゃん。
たとえ嵐が来ようとも、私は行かないといけないの」
「考え直しなさい!
死ぬわよ」
私は今、妹と玄関で押し問答をしていた。
外は台風が近づいているため、風と雨がとんでもないことになっており、扉越しでも轟音が聞こえる。
普通はこんな天気では誰も出たがらない。
しかし、今妹は普通の状態ではなく、外出しようとしていた。
なぜこんなにも妹は外に出たがるのか?
事の発端は占いである。
妹は占いが好きで、控えめに言って占い妄信者だ。
お小遣いをためては良くお気に入りの占い師の所へ行くのだが、その占い師が運命の人に会えると吹き込んだ。
今日という日付指定で。
くそ占い師め、余計な事をしやがって。
占いの結果を事実として受け止める妹にとって、信じない選択肢など無いのだろう。
だから何としてでも、運命の人に出逢おうと外出しようとするのだ。
私は妹の趣味に口だしするつもりはないけど、今日だけは別。
悲惨な結果(物理)が待ち受けているのは明白なので、止めるしかない
両親はというと、仕事先で交通機関が止まり、未だに帰宅出来ていない。
つまり今妹を止められるのは私だけ。
母さんがいれば、げんこつ一つで解決するのに……
「ずべこべ言わず、中に入りなさい」
「お姉ちゃん、嫉妬しないで。
今度、占いで聞いてみるから。
お姉ちゃんの運命の人」
「余計なお世話!
彼氏いるからね!」
「え、マジ!
誰?私の知ってる人?
紹介してよ!」
突如、妹の興味が『運命の相手』から、『姉の彼氏』にシフトする。
妹は占いと同じくらいコイバナが大好きなのだ。
妹の色ボケ具合には呆れるが、これはチャンス。
この話題をエサに部屋に引き込み、閉じ込めてやる。
「姉ちゃんの彼氏を詳しく話してあげるから、部屋に入りなさい」
「分か―でも、運命の人が……」
占いの事を思い出したのだが、再び外を見る妹。
外に出ようか、私の話を聞くかと悩んでいるだろう。
しかし手遅れだ。
こうなってしまえば、いくらでも言い包めることができる。
「占い師の人に『今日、運命の人に出逢う』って言われたんだよね。
どこで出会うかは聞いてる?」
「ううん、聞いてない。
それがどうしたの?」
「だったらなおの事、家にいなさい。
きっと運命の相手に出逢えるわ」
「どういうこと?」
「占い師は言ったんでしょ?
『今日出逢える』って。
だったら出逢えるわ。
あんたが外出しようが家にいようがね」
「それは……」
悩んでる悩んでる。
今、妹の頭の中で会議が行われているのだろう
だが、けれど無意味。
ここで畳みかける。
「それにね、出逢ったっとして、びしゃびしゃの状態で会うの?」
妹は『はっ』とした顔で私を見る。
「出会えても、そん状態じゃ親しくなれるかは分からないわ。
だったら、部屋の中で綺麗にお化粧して待ってましょう。
私の自慢の妹を、とびっきり可愛くしてあげる」
「お姉ちゃん……」
「私の彼氏の話も聞きたいんでしょ。
お化粧しながらゆっくり話してあげる」
「……分かった」
勝った。
これで妹は、二度と外に出たいと言うまい。
天気が落ち着くまで適当に話をして、ジ・エンド。
良かった。
コレでゆっくり安める。
「じゃあ部屋に行こうか?」
「うん」
妹を連れて部屋に戻ろうとした瞬間、ポケットに入れていたスマホの着信音が鳴る。
電話は、彼氏の母親から。
何かあったのだろうか?
妹に「少し待ってね」と言ってスマホの通話ボタンを押す。
「もしもし」
「もしもし、悪いんだけどうちの息子に変わってくれる?
電話に掛けても出ないのよ」
「こっちにはいませんよ」
「あら、入れ違いで帰ったのかしら?」
「いえ、今日はこの天気ですし、会う約束もしてないですね」
「おかしいわね。
少し前にした電話で、彼女の家にいるって聞いたんだけど……」
「男友達の方に行ったのでは?
でも嘘つく理由ないしな……」
「おかしいわねえ。
電話越しに女の子の声が聞こえたから、てっきり――」
「お姉ちゃん、出ちゃダメ。
危ないわ」
「止めないで。
私はあの浮気野郎を制裁しないといけないの!」
「外は風が強いから考え直して」
「たとえ嵐が来ようとも、あの浮気野郎は絶対に許さないんだから」
7/30/2024, 12:51:50 PM