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中学生の時、私は鍵っ子だった。

学校から帰ってきたら、さっさと宿題を済ませる。
私の親は、どちらかと言うと自主性を重んじるタイプだが、やることをやっていないと叱られてしまう。
お説教を食らうのは嫌だし、
宿題さえやってしまえば自由にしていいのだから
宿題など早々に倒すに限る。

宿題から開放されると
やかんに水を張り、お湯を沸かす。

お湯が湧くまでの間にマグカップを用意する時もあればティーカップを用意する時もある。
その時の気分しだいだ。

次いで、紅茶缶の茶葉を選ぶ。
こちらも気分によってティーバッグになったりする。

沸いたお湯をポットに入れ、
選んだお茶を淹れる。

紅茶に添えるお菓子はお気に入りのチョコをサンドしたクッキーがあれば、贅沢なスイーツセットの完成だ。
私がそのクッキーを好んでいることを知っている母親は偶に用意してくれていた。

紅茶とクッキーを勉強机の上に置くと
今度は、コピー用紙とお気に入りのシャーペン、消しゴムを準備する。

さぁ、紅茶&スイーツを楽しみながらの気ままなお絵描きの時間だ。

真っ白な紙に楕円を描き、十字を描く。
楕円の下に二本線を引いて首を描くと、それを支える肩、腕とおおまかなアタリを描いてポーズを決める。
描きたいキャラクターの顔を描き込み、髪の毛、衣装と描いていくと、真っ白な紙にキャラクターが現れる。
この時、手は絵を描いていても
頭の中では描いているキャラクター達が会話していたりする。
1人なのに1人でないこの時間が好きだ。
満足いくまで下書きをすると、
インクと付けペンを準備する。
付けペンは気をつけないと、インクを取りすぎてボタリと紙に落ちてしまうことがある。
インク瓶の縁で余分なインクを落とし
迷い線だらけの下書きから、線を選び引く。
ぼやけていたキャラクターが引きたち、
白の紙にハッキリとその存在が現れる。

ここで、余分な迷い線が邪魔なので消しゴムをかけるのだが、気をつけないといけない。
インクが乾いていないと、消しゴムの動きと一緒にインクが動き、望んでいない線が完成してしまう。
十分に乾かす事が肝心だ。
紅茶やクッキーを飲みながら待つに限る。

しかし、インクが十分に乾いたからといって
消しゴムをかける力加減には注意しないといけない。
加減を間違えると紙がぐしゃぐしゃになってしまうからだ。

お絵描きは注意点が意外にも多い。

消しゴムかけを終えると今度は
チラシの裏紙を用意する。
この裏紙は、表がカラー印刷で後ろは白紙、
更にツルツルしていないといけない。
チラシの上にペン入れをした紙を置く。
勉強机の脇にある棚からコピックペンの入った箱を取り出し、机の上に広げる。
様々な色が机の上をカラフルに彩る。
その中から、今回の絵に合う色を選ぶ。
何色も何色も色を重ねると、
白い紙にカラフルな世界が広がる。
完成した絵を手に取ると、白のチラシにカラフルな色が滲んでいる。
コピックペンは油性だから、裏に写ってしまうのだ。

出来上がった絵を片手に持つ。
真っ白な紙から完成したと思うと、愉快でしかない。

あぁ、今日も楽しいお絵描きだった。

満足気に窓の外を見ると、オレンジ色の眩い光と
紫色から紺色のグラデーションが空に広がっていた。

午後6時過ぎ、親がそろそろ帰ってくる時間だ。

冷めた紅茶を飲み干しつつ、
暮れなずむ空を窓越しに眺め、
私は片付けをするのだった。

7/1/2023, 11:20:32 AM