るね

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はっきりとは書いていませんがBLかなと
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【影絵】




伯爵家の使用人である私は、今日も主人であるご子息の後ろを歩く。

チラと後ろを振り向けば、寄り添う主人と私の影。実際には埋まることのない一歩の距離。堂々と歩む主人の斜め後ろに、その背を見ながら付き従う。

足元から伸びるのはまるで私の欲望をあらわす影絵。あなたの隣に立ちたい。あわよくば触れ合いたい。あなたの唯一に私がなれればいいのに。

使用人が主人に懸想しているなんて、知られたら間違いなく解雇されるだろう。だからこの想いは決して表に出せない。





雇い主の伯爵が何やら後ろ暗いことをしているのは知っていた。
伯爵は娘が生まれたあとに何年も経ってからやっと授かった長男を溺愛していた。息子には自分たちの汚い部分を見せなかった。だからその若君の側仕えである私も、直接悪行に関わることはなかった。

伯爵の娘が両親を摘発した。麻薬の取引に関わったという証拠を揃えて、騎士団の詰所に駆け込んだのだ。私も微力ながらそれを後押ししていた。

伯爵夫妻は捕らえられ、家は取り潰しになった。伯爵の娘には騎士の恋人がいて、彼女はその騎士の元に身を寄せた。
けれど、私の主人は……主人であった少年は、どこにも行き場がなくなってしまった。

平民になった伯爵令息は、じっと俯いて動けずにいた。私はその背中をさすって寄り添った。
「大丈夫。大丈夫です。これからも私がお守りしますから」
やっと隣に立てる。私はもう、この人の後ろ姿ばかりを見ていなくてもいいのだ。



4/20/2025, 12:37:21 AM