―跡―
〈Original Thema〉
悲しいことがあった
今改めて客観すると案外くだらないこと
だったのかもしれないが
でも悲しいことがあった
だから泣いた
泣きながら、帰路に着いた
泣き顔を誰にも見られたくなくて、
咄嗟に日傘を差した
顔を隠すのにちょうどよく
この季節、誰にも怪しまれることがない
雨が降っていなくても傘を差せるように
してくれた日傘の発明者に感謝
でも、跡は残った
私の通った道には不規則的な涙の跡ができた
私の泣いた跡
私が泣き虫だという印
私が泣きながらこの道を歩いたと記している
やがて跡は消えた
正確には消えたわけではない
跡をつくった涙が、気体になって、
空気に溶け込んだ
そこには何も無かったかと言いたげな
熱い熱いコンクリートだけが残った
私が泣いたことが
当たり前のように、空気になって
誰の目にも止まらなくなった
私が体験した悲しい出来事が
日常の中に溶けて、なかったことになって
誰の気にも止められなくなった
7/15/2023, 7:45:22 AM