一尾(いっぽ)

Open App

→短編・出るに出られず、
 
 あっ、誰か入ってきた。二人組?
 声からするに若そうだな。

「お前、さっきから机拭いたり、扉開けたり、何してんの?」
「誰かのためになるなら、俺はそれでいいんだよ」
「その生ぬるい目ヤベェな」
「せめて優しそうって言って」
「あのさぁ、街コン初っ端、イイヒト総合点で勝負しようとすんのって、どうなの?」
「きっと誰かが見ててくれる願望」
「なぁ、アーミーナイフ、知ってる?」
「急すぎん? まぁ、いいけど。アーミーナイフってハサミとかドライバーとか付いてる多機能なヤツ?」
「そうそう。で、例えばさ、ハサミ探してるときにアーミーナイフどこだっけって探す?」
「探さねぇよ。普通にハサミ探すわ。何の話だよ?」
「そうだろ? それが普通。つまりさ、総合点で広く浅く目指すよりも、一点集中の方がアピールしやすいってこと」
「浅いようで浅いな」
「――からの~⤴」
「いやいやいや、何も持ち上がらんし」
「マジか」
「すこぶるマジ」

 うっわぁぁあ!! ナニ、あれ!! 若いなぁ、可愛いなぁ。
 おじさん、あまりの衝撃にトイレの個室から出れなくなっちゃったよ。
 街コン中かぁ。俺らの若い頃は出会いの場といえば合コンだったなぁ~。今や、街コンとかマッチングアプリとかあるって聞いてたけど、友だちとの会話ってそんなに変わらんもんだな。
 もしかして若かった俺たちの会話もこうして誰かに聞かれてたのかな? 過去の話だけどそれが誰かのためになってたら、ちょっといいよな。
 ちょうど今の俺が癒されたみたいに。

テーマ; 誰かのためになるならば

7/26/2024, 3:50:32 PM