昔、プールで溺れた事がある。音はなくなり自分だけ世界から取り残されたようで、でも周りがはっきりとわかるくらい透明でとても美しかった。それから、私はその美しさに恋をしてしまった。これから先、生きていても 二度とこの思いは味わえないだろう。今の私の人生はこの水のように透明で綺麗なわけでもない。誰かに濁りきった嫉妬、恨みがあるだけだ。さあ、一歩を踏み出して
みればいい。そこには私の求めたものがある。こんな
汚れた世界からはおさらばするのだ。
タン、と橋桁から足を離す。ゆっくりとスローモーションみたいに体が、堕ちていく。
「あーあ、最低な人生だった!」
バシャン。水の中はあの時と変わらない透明で美しい
ままだった。
『透明な水』
5/21/2023, 1:17:04 PM