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♯新しい地図


 父の死をきっかけに、十年ぶりに故郷に帰省した。
 記憶の中の地図を頼りに、気の向くままぶらぶらと歩く。
 通っていた小学校は更地になっていた。
 世話になっていた診療所と理髪店は閉業していた。
 いまの時期、黄金色の穂を揺らしていた田圃には雑草しかなかった。
 往来に人の姿はない。うら寂れた道にぽつぽつと並んだ家屋。そのどれもが瓦がズレていたり欠けていたり、障子が色褪せていたり破れていたりと、もはや朽ちるに任せたといった様子だ。当然、住人はいないのだろう。
 ――ここはもう終わっていくだけだ。
 目新しいものはない。それでも、目の前に広がるこの錆びた風景を、俺は新しい地図としてアップデートした。

4/6/2025, 3:12:07 PM