6/29 お題「入道雲」
「口惜しいですね」
寝台に置いた大きなクッションに背をもたせかけ、侯爵は呟いた。
「このような生命溢れる季節に、世界から消え逝くというのは」
独り言だったのかも知れない。だが私の耳はそれを聞いた。
あの雲を見るたびに、思い出す。彼が成し得なかった、民を守るための改革。
けれどあの雲が降らす雨は毎年、干ばつに見舞われがちなこの大地を潤してくれる。
彼は見守っているのだろう。あの雲の上、慈悲に満ちた眼差しで、民とこの国の行く末を。
(所要時間:8分)
6/29/2023, 12:51:09 PM