あなたがすき

Open App

「ほんとにこの時期って嫌。目とか鼻が痒くて。」
そう言って3枚目のティッシュを抜き取り勢いよく鼻をかむ彼女の、赤くなった鼻頭を見てくすりと笑う。
相変わらずアレルギーの酷い様子で見ていて痛々しいが、慣れてくると涙目がなんだか可愛く見えてくるものだ。「笑わないで!ほんとに辛いんだから!」なんて抗議しつつ私の腕を抓る彼女はいつも通りの容赦の無さでこれでもかと眉を吊り上げている。
「ごめんごめん。鼻セレブ買ってあげるから許して。」
「やった!ちょっと良いやつだ!」
柔らかいティッシュを貰えるだけでこんなに喜ばれるのなら、もう少しくらい花粉に困ってくれてもいいのに。いや、辛くなくなるのならそれに越したことはないのだけれど。もう少しくらいは弱った君を見ていたいのも本音だ。
風が運んでくるのは、単に花粉や種なんかではないのかもしれない。

遠くで鳴る音、生命の息吹、こころ。風が運ぶもの。

風が運ぶもの

3/6/2025, 1:11:36 PM