「桜は枯れないのよ」
彼女はそう言うと、ほっそりとした冷たい手のひらを私の手の甲に重ねた。
とある病室の一角である。彼女は窓際のベッドに座って外を眺めていた。望むは満開の桜である。
「散ってまた咲くの…」
声が震えている。無理もない。彼女は——。
「私はもう、葉桜だけど」
「あなたと何度も過ごした春、楽しかっ…」
私はとっさに彼女を抱きしめた。すり寄せた頬に大粒の涙が伝う。
「まだ春だよ」
私の声もいつしか震えていた。
ふたりで見る最後の景色は桜花爛漫の彩であった。
4/10/2024, 1:06:03 PM