あの時は…あぁ、そうだ。文化祭に向けての買い出しをしつつ、後輩とだべりながら町を歩いてたんだったな。
そんで…、なんでオレがそっちを見たかは、あんま覚えてねぇけど。本当になんとなく、道路の方に目をやって…。
黒猫と、それに気付いてないらしいダンプを見た。
気付いた時には、オレは、後輩のポケットから魔道具をひったくっていた。
魔道具に認められた所持者以外だったんで、世界の時の流れを止めることはできなかったが…時の流れを遅くすることはできた。
オレの足は最悪 轢かれてもいい。だからどうか、黒猫だけは。
俺が向かいの歩道に飛び込んだのと、ほぼ同時くらいだったか。
時間の流れが戻り、ダンプが走り去った。
夏場だったら肩でも擦りむいていただろうが、秋物のコートを着ていたおかげで、オレは負傷せずに済んだ。黒猫も…。
……いない?
まさかと思って後ろを見たが、道路に赤色は見当たらなかった。
…まぁ、猫は俊敏だし、野良猫ともなれば人間への警戒心は高いだろうからな。オレがダンプに気を取られている内に、何処かに去ったんだろう。
そうこうしていると後輩が駆け寄ってきたんで、勝手に使ったことを謝りつつ魔道具を返した。歩道に飛び込んだ衝撃はこの道具もきっと受けたはずだが、幸い傷や破損はなかったようだ。
もう道路に飛び出すんじゃねぇぜ。今回のように、誰かが助けてくれる補償はねぇんだから。
(「ティマセル学園」―天遣 空妖―)
11/14/2024, 11:29:21 PM