ずっと、ずっと、後悔していたことが一つだけある。
身分も家柄も違うーーあの子の顔を声を忘れたときは一度もない。
街でたまたまお互いに見かけて、互いに一目惚れをした。あの子とは、夜ナイショの逢瀬を繰り返していたのは一度や二度ではない。
数えきれないほど夜のナイショのデェトをしてきた。
ただ、あの子には生涯伝えられなかった言葉がある。
伝えるべき言葉だった。
ある日、あの子のほうから『もう、会うことはないでしょう』と告げられたのだ。
すぐに理解した。
あの子は、【嫁】に行くのだと。
わたし自身も国から赤紙が届いていた。
この子とは一生会うことはないだろうと……。
だから、わたしはあの子へーー『そうですか。楽しい時間をありがとうございました』と笑顔で見送ったのだ。
あの子の顔を声を今でも覚えている。
この煩い戦闘機の音に掻き消されないほどにあの子の顔を鮮明に覚えている。
わたしは、このあとお国のために消える。
天皇陛下万歳! と叫びながら死ぬなんてーーそんなのは嫌だ。逆賊なんて思われるかもしれないが、自分の気持ちには嘘を付きたくない。
せめて、最期に、あの子へ伝えたい。
『愛していました(I love)』とーー
【終わり】
6/12/2025, 3:52:16 PM