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 陶器製の家の形をした置き物。中にキャンドルを入れると、家に灯りが灯ったようになる。

 せっかくだからと少し照明を落とす。テーブルに置いたその小さな家がぽーっと浮かびあがる。
キャンドルの炎は、ゆらゆらと不規則に揺れて、私たちは、飽きることなくその灯りを見つめた。

 そのうちに、キャンドルに仕込まれている香りがふわっとしてきた。優しいハーブの香りに、「ほぉーっ」と思わず声がもれる。気づいたら「私さ、気になる人いるんだけど…」。「いやあ、最近落ち込んでて」とか独り言のように、それぞれの心のもやもやが出てきた。
 
 そして、その言葉たちは、小さな家の灯火の中にするすると吸い込まれていく。しゅーっしゅーっと一つ一つ燃えていくような気がした。揺れる灯りに映る私たちの顔は、何だかとても安らいでいた。


「灯火を囲んで」

11/8/2025, 8:21:19 AM