谷間のクマ

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《やさしい嘘》

「怪盗ブレインの予告時間まで、残り1分を切りました! 現場は大盛り! さあ、カウントダウンが始まりました!」
 怪盗ブレインの予告時刻の1分前。
 普段は至って普通のJKをしている私には、怪盗ブレインというもうひとつの顔がある。
 怪盗ブレインは今世間を騒がせる大怪盗。私は高一の春、母の後を継いで二代目ブレインとなった。
「さあ来い! 怪盗ブレイン!!」
 警備陣の中、私の親友、なつこと中川夏実が言う。その隣には同じクラスの紅野くんもいる。その2人は訳あって警察の協力をしている。つまり、警察側。私の、怪盗の“敵”。
 私は親友だって騙して、盗みをする。
 それが私の、運命だから。
『5、4、3、2、1、ゼロ!!』
 ボフッ。
 場の緊張感に似合わない、のどかな音がして周囲が煙に包まれる。私が煙玉を投げたのだ。
 ゆっくりと煙が晴れていく。段々と、私の姿が露わになる。
「来たわね、怪盗ブレイン!!」
 なつが言う。
「ええ。今日も獲物はいただくわ!」
 私は怪盗ブレインの衣装を纏い、怪盗ブレインとして答える。

 なつ、貴方が私の正体を知ったら、なつはどうする?
 私を捕まえる? 怒る? それとも、見逃してくれる? 
 見逃してくれなんて言わない。許してくれなんて言えない。
 でもきっとなつは私の正体に気づいたら迷うよね。信じられない、って思うよね。
 だからね、なつ。私は貴方に正体をバレるわけにはいかないの。私は貴方に悩んでほしくなんかない。
 なつには、無邪気に笑っていてほしいのよ。
 だから私は今日も、嘘をつく。
 これが私の、人生最大の《やさしい嘘》だ。

(終わり)

2025.1.24.《やさしい嘘》

1/24/2025, 2:15:51 PM