せつか

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小さな背中が緊張に震えている。
当然だ。
スポットライトに照らされた舞台。
彼女は今からそこに行くのだ。
初めての舞台。
プリマに憧れた小さな女の子が今、夢を叶えようとしている。
そう広くはない手製の舞台。
観客はみな親類縁者のようなもので、現実とは程遠い。
彼女はそれをよく分かっている。――私も、観客達も。
この舞台は現実ではない。
私と彼女の関係も、観客達と私達の関係も。
たった一夜の幻だと、誰もが知っている。
だがそれでも、彼女は全霊を込めて踊るだろう。
爪先立ちで、両手を広げて、くるくると。
途中で転んでしまうかもしれない。
だが観客達は万雷の拍手を打つだろう。
夢を叶えた小さな少女に。

ベルが鳴る。
彼女が微かに振り向く。不安に揺れる瞳。
私はそっと手を伸ばし、彼女の華奢な背に触れる。
「大丈夫。行っておいで。小さな歌姫」
彼女が再び舞台に視線を向ける。

「いってきます」
思いのほか力強い声で答えて、彼女は舞台への一歩を踏み出した。


END



「ベルの音」

12/20/2024, 3:30:00 PM