中宮雷火

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【最高の景色】

見上げると、色んな国の国旗が見える。
背景には秋晴れの青。
私はしっかりと息を吸い込み、手に持っている緑色の旗をぎゅっと握りしめた。

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遡ること2ヶ月前。
私たちは体育館に集められ、先生からあることを言われた。
「小学校生活最後の運動会は旗ダンスをします」
旗ダンス、聞き慣れない言葉だ。
首を傾げる私たちに、先生はあるビデオを見せてくれた。
先生たちが曲に合わせて踊っているビデオ。
これを見本にして私達は練習するらしい。
「みんなで、最高の思い出にしようね!」

その日から、運動会の練習が始まった。
フリだけでなく、集団での動き方を練習した。
いわゆる「集団行動」というやつだ。
先生曰く、上から撮影すると凄く綺麗に見えるらしいのだ。
しかし、これが難しい。
列と列がぶつかり合うのは日常茶飯事、
かなり難しいのだ。

友達と休み時間に自主練習することもあった。
お互いに教えあったり、分からないフリは一緒に先生に質問した。
「熱心にやってるなあ!」
と先生に言われ、何だかとても嬉しかった。

10月初め。
初めて運動場で通し練習をした。
2時間やったけど、全然ダメだった。
フリがピシッと揃っていない、
集団行動が整っていない。
「あと2週間しかないんだよ!?」と先生が言う傍ら、
「なんかめんどくさいよね」
「別にどうでもよくない?」と話している声が聞こえた。

それからの練習も、皆の心は中々揃わなかった。
みんなどうでもよくなっているのだ。
最初は「最高の思い出を作るぞ!」なんて意気込んでいたのに。
私もどうでもよくなってきた。
そんな時、去年の小学6年生のパフォーマンスをビデオで見せてもらった。
音楽がかかった瞬間、一瞬にして空気が張り詰めた。
揃った動きに美しさを感じた。
感じたことの無い熱があった。
私だけではなく、みんなが息を飲んでいた。

それからの練習は、雰囲気が変わった。
今まで常温の水のようだったのに、今は喉ごしのよい冷水みたいだ。
「あと1週間」と先生が言う傍ら、
「やばい、緊張するなあ」
「大丈夫だって、」と話している声が聞こえた。

運動会前日、最後の練習。
みんなが息をそろえて、心を1つにした。
大丈夫、フリなら覚えてる。
動きはしっかりと頭に叩き込んだ。
旗をぎゅっと握りしめた。
音楽がかかった。
私達は、汗が頬を伝うほど必死に踊っていた。

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当日。
本番前。
もう喋ってはいけない。
みんなが見てる。
お父さんもお母さんも、下級生も。
私は緊張している。
手がプルプルと震えているのを感じる。
見上げると、色んな国の国旗が見える。
背景には秋晴れの青。
ああ、私は頑張っている。
私はしっかりと息を吸い込み、手に持っている緑色の旗をぎゅっと握りしめた。
これから、最高の景色を見る。
もう2度と見れない景色を。

10/18/2024, 12:48:13 PM