なこさか

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  協力



 聖光教会の騎士団のには、彼らをまとめ上げる執行官と呼ばれる四人の幹部がいる。
 厳格の執行官・サリエル。
 理知の執行官・エミール。
 慈悲の執行官・ラファエル。
 冷酷の執行官・ヴァシリー。

 執行官たちは教会から依頼を聞き、それらを他の騎士たちに伝え導くのが主な役目だ。執行官たちは月に一度、ガルシア大修道院にある騎士の間で一ヶ月の報告と今後の方針について議題する日を設けている。
 ちょうど、この日が執行官たちの会議の日だ。

 「やぁ、サリエル殿。待っていたよ」

 青いローブに身を包み、リムレス眼鏡をかけた女性……サリエルを出迎えたのは、黒いマスクで顔を隠し、黒装束に身を包んだ青年。彼が慈悲の執行官・ラファエルだ。

 「あなたが一番だったのですね、ラファエル」

 「今回はたまたまね。あの二人はまだのようだけど」

 「遅くなってしまってすまない。サリエル、ラファエル」

 「いえ、問題ありませんよ。時間には間に合っています」

 サリエルの言葉にエミールは微笑みで返す。そして、騎士の間に二人しかいないことを確認すると、小さく息を吐いた。

 「やれやれ、まだあの子は来ていないのか」

 「ヴァシリー殿が時間通りに来ること自体、珍しいことじゃないか。遅刻したって僕たちは何も思わないよ」

 「誰が、時間通りに来ることが珍しいと?」

 その声に三人は振り返ると、不敵な笑みを浮かべたヴァシリーが部屋の入り口に立っていた。しかし、その目は笑っていない。しかし、三人はヴァシリーの放つ刃のような鋭い殺気に全く怯んでいなかった。

 「時間通りに来たならそれで良いのです。さて、これで全員揃いましたね。それでは始めましょう」

 各々が席に着く。それぞれが一ヶ月の報告をした後、ラファエルが軽く咳払いをした。

 「失礼。本来なら今後の方針について話し合うべきなのだろうけど……昨日、司教様より騎士団に依頼が来たんだ。南の国にある南方教会が背教者の連中に乗っ取られたと。討伐は今週中に終わらせて欲しいと」

 「その背教者の討伐……というわけか。しかし、それならわざわざ私たち執行官四人に伝える必要も無いのでは?私たちのうち、誰か一人にでも伝えれば如何様にも出来るはずだろう?」

 エミールの発言にラファエルは「ところが、そう簡単にはいかないようなんだ」と肩を竦める。

 「それはどういうことだい?ラファエル」

 「簡単だよ。南方教会にいる背教者たちの被害が甚大なものだからだ。背教者を討伐する部隊と彼らに虐げられた者たちの救護部隊の二部隊を率いる必要がある」

 ラファエルの発言にサリエルは頷く。

 「救護ならラファエルの部隊が適任ですね。あなたの育ててきた騎士たちは皆、応急措置に長けていますから討伐は……そうですね。今回はヴァシリーに任せましょう」

 「……ふん」

 「こら、ヴァシリー。返事」

 「うるさいぞ、エミール。別に行かないとは言っていない」

 「相変わらずお前は私に反抗的だね……」

 呆れたように呟くエミールを他所に、ヴァシリーはサリエルを見る。

 「その背教者は皆、殺していいのか?」

 「いえ、出来れば何人か捕虜にしてください。残党がいるなら居場所を吐かせなくては。女や子供であっても同情や容赦は必要ありません」

 「当然だ。教会に刃向かうのだから、それはもう徹底的に倒さなくては、な?」

 楽しげに笑うヴァシリーにサリエルは表情一つ動かさずにラファエルに視線を向けた。

 「ラファエルはなるべく人々を救護出来るよう尽力を。敵に同情も慈悲も与えないヴァシリーの部隊なら、あなたも救護に集中出来るでしょう?」

 「ああ、問題ないよ。サリエル殿とエミール殿はどうするんだい?」

 「私たちは後処理ですね。ヴァシリーの方で捕まえた捕虜の拷問や残党の行方を追います。エミール、手伝ってくれますね?」

 「もちろん。私で良ければ力になろう」

 「話はまとまりましたね。討伐は今週末に行います。各自準備を行い、南方教会の救援に向かいます!」

 会議が終わった後、ラファエルとヴァシリーは一足先に騎士の間を後にしていた。

 「ヴァシリー殿と共同作戦は久しぶりだね。よろしく頼むよ」

 「ああ、こちらこそよろしく頼む。ラファエル」

 「……君は変わったね。今までは誰かに対して同情を寄せたり、協力するような人では無かったのに。それも君が教え子を持つようになったからかい?」

 ラファエルの口調は丁寧だったが、その焦げ赤色の瞳はヴァシリーの真意を知る為に鋭く細められていた。

 「誰かに対して同情したり、協力をした覚えは今でもない。あの娘に対してもだ。あいつの悲しみや苦しみは俺には理解できない」

 「……そう。少しでも人らしいと思ったけれど、どうやら思い過ごしのようだ」

 「だが」

 「?」

 「お前のように、人の苦しみや悲しみを理解出来たらと思うことは、ある。あの娘が悲しい顔をしていると、俺はどうにも落ち着かない」

 戸惑ったように視線を彷徨わせるヴァシリーにラファエルは目を丸くした。

 (……これは、驚いたね。あのヴァシリー殿が、ならこの機会を逃すわけにはいかないな)

 「なら、次の討伐戦の後、僕たち救護部隊の手伝いをしてくれるかな?きっとかなりの負傷者がいる。君たちの部隊も力を貸してくれたら、とても助かるんだ」

 「……ああ、分かった。手を貸そう」

 「感謝するよ、ヴァシリー殿」

 (僕の考えが彼に理解出来たなら、執行官の均衡ももっと良いものになる。誰かの苦しみを、悲しみの心を理解できるのは、とても素敵なことだよ)

 マスクの下でラファエルはヴァシリーの心の成長を密かに喜んだのだった。

2/20/2024, 12:36:43 PM