文月。

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「怖がり」
今でも思い出す。
1年前、その命を手放した、私の家の犬のことを。
彼女の名前はラフィアだった。
彼女はとても優しい性格で、何をしても、私のことを強く噛んだりはしなかった。
泣いている時は、そばに来て寄り添ってくれて。
寝る時はいつも一緒で。
家を出る時も、帰った時も、いつも玄関まで「いってらっしゃい」と「おかえり」を言いに来てくれていた。
私は小さい頃、雷や洗濯機などの大きい音が苦手だった。
洗濯機が動いている時は、ラフィアを抱いて横を通るようにしていたし、
雷が鳴る夜は、ラフィアにしがみつきながら共に寝たものだ。
今でも、彼女が私の手を舐めて慰めてくれたことを思い出す。
その感覚はまだ、私の手に残っている。
怖がりな私を、彼女はいつも気にかけてくれていた。
彼女が年老いて衰弱していた時、私は高校に向けての受験で忙しかった。
今亡くなると迷惑がかかると考えたのか、彼女は衰弱しても、長生きした。
受験が終わって、無事に第一志望校に合格した一ヶ月後に、彼女は死んだのだ。
最後に、私の手を舐めて。
怖がりな私を、この世に置いていくのが心残りだったのだろうか。
今はもう、私は怖がりじゃない。
それはきっと、彼女が近くにいてくれているからなのだろう、と、私は思う。
きっと、この先どんなに怖いことがあっても。
彼女が、たとえ見えなくても、隣にいてくれるなら。
私は、もう何にも臆しない。
「ラフィア、一緒に行こう?」
不安な時、いつも言っていた言葉は、私だけの、勇気の魔法の言葉だ。

3/16/2024, 10:20:00 AM