最初はね、昔からの腐れ縁くらいにしか思ってなかったのよ。
家が近所でね。小さい頃から遊ぶのも学校へ行くのも一緒だった。
もう当たり前ってくらい一緒にいた。だからなかなか気付かなかったわ。本当はわたしにとって、あいつは大切で特別な人だったんだってこと。
あいつが就職で地元を離れることになってから、好きだって自覚した。さんざん泣いたわ。わたしってなんて馬鹿なんだろって、後悔した。
それで腹が決まったのかな。わたし、あいつのこと追い掛けて行っちゃったの。自分が就職した会社を一ヶ月で辞めてまでね。あいつすごく驚いてたわ。それでますます驚かせてやろうと思って告白してやったの。そしたらなんて言ったと思う?
俺が十五年も言えなかったことを、お前はあっさり言うんだなって。むかついたから叩いてやったわ。早く言いなさいよ。せめてこっちに来る前に告げなさいよねって。
私の人生に連なる、私の知らないもう一つの物語である、父と母の馴れ初め話。
まるで少女のように笑う母の隣で、私もクスクスとつい笑ってしまった。
【もう一つの物語】
10/29/2024, 2:39:21 PM