300字小説
貴方との美しき想い出
春風に色とりどりの野の花が揺れる。
『先生、私は先生のことを愛しています』
十四歳から二年間。この地にある別邸で家庭教師として仕えていた貴族の若君。春の空によく似た色の瞳を真っ直ぐに私に向けて、告白してくれたときのことを思い出す。
少年の憧憬混じりの幼い恋だというのは解っていた。しかし、貴族社会を女一人渡り歩くのに、あの真っ直ぐな想いは、随分と私の心の支えになっていたらしい。
その彼が……二年前に都に戻った彼が、この春、侯爵様の姫君と御結婚されると風の噂に聞いた。
鳴き声をあげながら、渡り鳥の群れが都がある北の大地へと帰っていく。青い空を滑るように去っていく姿を見上げ
「お幸せに」
と私はぽつりと呟いた。
お題「幸せに」
3/31/2024, 12:52:15 PM