『すれ違い』2023.10.19
営業の外回りの途中、懐かしい顔とすれ違った。すらっと背が高く、印象的な髪の色と、西洋人特有のすっきりした顔。あれは高校の時のクラスメイトだ。
人懐っこく気さくな性格で、自分ともちょくちょく世間話をしたことがあるし、派手な見た目に反して気のいいやつだった。
最後に会ったのはいつだったか。多分、高校の卒業式以来、会っていないのではないかと思う。
彼は同窓会にも参加していないし、連絡先も交換しなかったから、卒業後なにをしているのかもしらなかった。
しかし、最近ではよく彼の顔を見るようになった。主にテレビで。
彼はミュージカル俳優をやっているらしく、かなり人気者で舞台だけでなくバラエティー番組や音楽番組にも出演している。
初めてそれを知ったとき俺はたまげて、幼なじみの女友だちに連絡をした。
すると彼女は特に驚いた風もなく、よく会うから知ってると答えた。
曰く、彼女は彼の所属する事務所の下でカフェを営んでおり、よく彼と顔つきを合わせているようだ。
それこそ驚きだったし、それなりに親しかったと記憶しているので、そのすれ違いに少しばかりショックを受けた。
気が付くと踵を返して彼の後ろ姿を追っていた。
どうせ覚えていないだろうし、ファンとして声をかけてみよう。そんな気持ちで彼の肩を叩き声をかけた。
彼が振り返る。
名前を呼ぶと、彼は一瞬迷惑そうな顔をしたが、俺の姿を認めると少しだけ驚いたような顔をした。
そして、その表情を笑顔に変えて、高校のときのままの気さくさで俺の名前を呼んで再会を喜んでくれた。そのあとは軽く話をして連絡先を交換し、今度飯でも行こうと約束をした。
もし、今日彼とすれ違わなかったら、こんな奇跡は起こらなかっただろう。
10/19/2023, 12:58:00 PM