人間がミステリー的なそんな感じの展開で死ぬ話です。グロテスク及び詳細の描写はありません。特に解決もしてません。
「この場に探偵はいない。そういうルールのはずだ」
屋敷の主人が悲痛な声で叫んだ。
静寂を破ったそれを皮切りに、招かれた客たちがそろりそろりと続きを口にした。
「そうとも、そうとも」
「我々は推理を口にしてはならない」
「凶器を確定させてはならない」
「犯人を示してはならない」
誰も彼もが遠巻きにいっとう大きなシャンデリアを囲んでいた。その下敷きになった、顔も伺えぬ被害者の身元すら知ろうとしなかった。
外は季節はずれの大雪予報のままに夏の嵐よりも吹きすさんでいて、屋敷への路は絶たれている。すべての重たいカーテンが引かれた。すべての外と通じる窓戸口が鍵で閉ざされた。それでも煙突からか、通気口からか、雪花が紛れてくるほどだった。
やがて細々と続いた声も再び静けさを取り戻す。彼らは主人も含めて沈痛な面持ちでお互いの顔を見合わせるしかなかった。
この場に探偵はいない。いてはならない。なぜならそういうルールで集まったから!
この日、交流会と聞いて集まった反探偵同盟の面々は自らがすすんで探偵の真似事をするなど、まさに死んでも嫌だった。しかしながら、みな人殺しのいる場所から逃げ出したくもある。
どの顔も忙しなくぎょろぎょろと目を動かして差し出す贄を見極めた。誰かが〝汚れ役〟をやらねば疑心暗鬼が終わらないことを誰もが察していたからだった。
なにせ、数時間前、屋敷の主人は乾杯の音頭でこのように告げて客の笑いを取ってしまったので。
「──少なくともこちらのシャンデリアは今朝から何度も確認しております。ええ、ええ、まったく落ちるわけがない」
彼は最後にはこう締め括った。
「我々の中に殺人鬼がいるわけでもなければ、探偵の出番などありませんからね! 反探偵同盟の夜に!」
ああ、そうしてグラスの音が懐かしい記憶に感じるほどの、長く苦しい一夜が始まったのだ。
4/24/2023, 2:04:37 PM