このえ れい

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「あれって下弦? 上弦? どっちだっけ?」
 隣で歩く友人が暗い空を指さす。
「上弦だね。欠けてる部分が上向いてるから」
 ふうん、と空を見上げる友人の息は白い。この頃すっかり寒くなり、陽が落ちる時間も早くなった。今日は、ことの他冷え込んでいる。
「前見て歩かないと危ないよ」
 まだ月を見つめている友人は、私のその言葉を聞くと私のコートの袖口を、そっと掴んだ。
「これなら危なくない」
 私を見て、にっこり笑う。
「ねえ、私の目、月が入ってると思う。いっぱい見たからね」
 ずいっと顔を近づけてくる。夜闇の中、友人の目が光った。
「何それ。早く行くよ」
 私が足を速めると、友人も小走りでついてきた。袖は掴んだままだ。
 友人の瞳には、月ではなくキラキラの星があり、同時に近さに狼狽する私の顔もうつっていたことを、友人に気づかれていないことを願った。

1/10/2024, 7:40:02 AM