ふうふ
「石蕗さんって独身?」
「ノン・デリカシーここに極まれりですわ尾上君……」
「普段横文字全然得意じゃねぇ癖になんでこういうのだけペラペラなんだよお嬢」
「ふ。いつまでもすまほに手こずる私ではありませんことよ」
「この間まで永久電池だと思ってた奴が偉そうに…」
お嬢がそもそもそこまでスマホを使わないから電池が減らない。
キッズケータイでいいんじゃねって言ったら怒るかな。
「で、実際どうなの?独身?左手の薬指どうだったっけ」
「指輪ですか?石蕗、いつも手袋をしてますし……そもそも仕事柄常に装着してるとは限りませんわよ」
「それもそうか……笹本さんなら知ってるかな」
「知ってるのでは?私より付き合い長いですし」
「でも実際どうなのか分かると面白くないんだよな…」
「簡潔に言います。最低ですわね」
「真実はどうでもいいんだよ。下世話な話がしてぇの」
「真実最低ですわ尾上君」
「2回も言った!2回も!!」
しかし本音である。石蕗さんには失礼かつ申し訳ないがどうでもいい。あの人の私生活って想像つかない。
いつも黒スーツ着こなしてお嬢(と俺)の送り迎えするか一日中仕事でいないかしか知らない。
奥さんいても知らない。いなくてもそうかって感じ。
でも10年付き合いがあるお嬢も知らないってことはいないんじゃねぇかな。隠す意味とか無いだろ。
「なぁお嬢、石蕗さんに奥さんいたらどんな人だと思う?」
「……まず陰陽師の仕事に理解がある方でしょう、あと柳谷家にも理解があって……難しくなってきました」
「笹本さんじゃね……?」
「……そうですわね?」
「何するにも息ぴったりですし」
「喧嘩してるところ見ないし」
「…………2人、ちょっと良い夫婦なのでは」
「実は付き合ってたとかあんのかな」
「わ、私はこれからどうすれば……お邪魔虫では」
「あの人らお嬢がいないと繋がらないしお嬢のいない生活考えられなさそうだから家出だけは勘弁してあげて」
そもそもわからんし。あの2人年近いしな。笹本さんの方が三つくらい上だっけ。70代って事しか知らん。
「今度きっかけがあれば2人の時間とか作ったほうがいいですかね……」
「わからん……そうかもしれん……」
「幸せになってくれると、いいんですけども……」
「そうだな……いい人たちだもんな……」
好奇心から始まった雑談は、なんかちょっとしんみりして終わった。
ところで世の中にはこんな言葉がある。
『壁に耳あり障子に目あり』。
「って事でなんか嬢チャンと尾上君が盛り上がってたよ」
「なんでその場で訂正しなかったんですか貴方は」
「だって思わぬ方向に話が転がってて口出す暇なかったんだもん」
「もんじゃありませんよ馬鹿野郎」
「どうしたらええでしょうか石蕗はん…」
「ほっときましょう、なにもないと思えば終わる筈」
「石蕗はんとそういう話なるのは、本当に、勘弁してほしいですねぇ…本当に、嫌ですねぇ…」
「私も笹本さんとは嫌ですねぇ…本当に嫌ですねぇ…」
「ワハハ凄い嫌そう」
「貴方がその場で否定したら全部終わった話ですけど!?」
「しばらく矢車はんのおやつは、無しですねぇ…」
「ご無体な」
「無しです」
11/22/2024, 3:26:57 PM