たまき

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#97 ススキ


『幽霊の正体見たり枯れ尾花』
ほらあそこ、白くてヒラヒラ…ぎゃあ幽霊だ!
…って、枯れたススキかよ!

使い方としてはビクビクしてると、何でもないものも怖く感じちゃうよね、と。そんな感じです。

ちなみに尾花とは、昔の人が動物の尻尾に見立てて呼んだススキ(の穂)のこと。幽霊に見えたり尻尾に見えたり、忙しいね。


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「怖いなら一緒に行ってやろうか?」
ニヤニヤと、明らかに揶揄いまじりに言われたら意地を張ってしまうのも仕方ないというもの。

とはいえ。

(なんでお風呂の前にホラー映画なんて見…いやいや考えない思い出さない)

こういうのは勢いが大事と、強めにシャワーの湯を出し髪を洗い始めた。
ささっと終わらせたいところだが、私の長い髪では、そうもいかない。

さっき見た場面を頭から追い出そうと、必死に違うことを思い浮かべていたのに。
勝手知ったる浴室。いつもなら、目をつぶったまま洗い終えるのに。

何故か、ちらっと目を開けてしまった。
開けてしまうと、もう背後が気になって仕方がない。
そろ、と後ろを振り向いた。

いつもと変わらない半透明の扉、の奥。向こう側。

(なんか暗い…そこに誰か立っ…てる訳ないから。
気のせい、気のせいだから)

きちんと洗えたか、なんて判断する余裕はなかった。頭は泡まみれになった。もうそれでいい。

再度背後を確認する勇気もなく、
いつもの倍以上のスピードで手を動かし。

じゃぼんと湯に入った。すぐに膝を抱える。
適温で溜められた湯はあったかい。
だが、手も目も届かない背中が気になる。
見えないのが寒い。

(なんかもう、無理。無理だ)

もはや呪文と化したキノセイも効かず、
若干俯きながら扉を開けた。



ちなみに、浴室扉の奥が暗く感じたのは、
透けて見える脱衣所のドアが焦げ茶色だったから。

誰もいない、
洗剤の位置すら記憶と変わりない脱衣所。
思わずため息が出た。
ほっとなんかしてないやい。


そうしてリビングに戻ると、

「出るの早っ」

ひーひー笑われた。予想はしてた。

ホラー映画を推してきたのからして確信犯なんだ。
腹いせにアイスを買わせよう、そうしよう。


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ウィキに、ススキ草原は草原としては最終段階で、放置すると森になっていく、という記述があって面白かったです。人の手を入れないと保てないってことですね。

11/10/2023, 3:53:05 PM