sibakoのおさんぽ🐾

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お題【欲望】

「あなたの願い、なんでも一つ叶えましょう」

ヤツは、そう言った。
ヤツは、ランプを擦ったら、ぼわわんッと出てきた。
俺が、「ランプの魔人か?」と聞いたら、「いえいえ、ただの悪魔でございますよ」と返された。

しかし、なんとも胡散臭い。
なんの代償もなしに、願いを叶えるなんてそんな都合のいい悪魔がいるとは思えない。

「目的はなんだ?」

俺が尋ねると
「おぉ、こわいこわい。そんなに睨まないでください。......あぁ、そうそう、目的ですか? ただの興味です。あなたが何を望み、どうするのか。代償も何もございませんのでご安心を」

「悪魔に二言はございません」とヤツは微笑む。
仕方がないので俺は信じることにした。

「そうだな、願いかぁ。なんでも、と言ったな」
俺は、誰よりも欲深い人間だと理解している。
金も、名誉も、才能も、全て欲しい。
何かいい方法はないものか......。
「!」
あぁ、なんて俺は頭がいいんだ。
俺の頭に名案が浮かんだ。

「なんでも一つ、だな?」
「はい」
ヤツの確認をとった。

「なら、俺の願いは“俺の願いを無限に叶え続ること”だ。できない、とは言わせねえぞ」

「いいですよ。ですが、これからの変更は不可能ですよ。いいですね?」
ヤツは、ファイナルアンサー? という顔で聞いてきた。
「ああ。」
そもそも、断る理由がない。何かあれば頼んだらいいのだから。

「何かあれば、ランプを3回擦って下さい。いつでも参りますので」
そう言ってヤツは消えていった。

そこからは、天国のような日々が続いた。
俺は......

大金持ちになった。
一国のお姫さまと結婚して王になった。
邪魔な奴は死刑にして、気に入った奴は召し上げた。
漫画も、映画も、俺のために作らせた。
不老不死になった。
魔法使いになった。
世界征服をした。
宇宙征服もした。
タイムスリップも、異世界転生もしてみた。

1000年たった。

俺は全てを得た。何もかも手に入れた。
そして、俺は空っぽになった。

なんでも手に入るこの世界。
幸せなはずなのに。

(あれ? 俺ってなんのために生きてるんだっけ?)
あぁ、そうか。この世界に俺なんて......

誰でもいい。誰か、俺を殺してくれ。

「かしこまりました」

今、ヤツの声が聞こえたような......



ゴクンッ

「ごちそうさまでした」
ヤツはペロリと舌舐めずりをした。

「あぁ、なんて人間は愚かなのでしょう。全てを得たというのに、最後に死を願うとは。なんとも興味深い。次はどんな美味しい欲望を持った人間が来てくれるのでしょう?」

楽しみです、とヤツは笑った。
それはなんとも悪魔らしい、不気味な笑みだった。
そして、ヤツはランプの中に消えていった。



きっとヤツは今もどこかで欲深い人間を求め、ひっそりとランプの中で待っているでしょう。
次は、あなたやもしれません。

3/1/2023, 12:49:09 PM