囃子音

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耳を悪くし
胃を悪くし
肝臓を悪くし
足は元から悪かったのがさらに悪くなって
朝は光によって覚められず
夜は闇よりさらに深い闇に怯え瞼を下ろせず

今年ついに、目を悪くした
この土地へ来た頃には
ビルのあかりの四角がはっきりわかったのに
いまではなんと桃源郷の如し

もはや自分の肉眼では何も見えないが
かわりにそのイデアは鮮明に知り得る
若い頃傾倒したモネやゴッホの絵
あれらこそが真実を描いていたとようやく理解した

たしかに日々は過ぎ去る
得ては手放してきた人生
そろそろ躰すら手放す季節

たしかに日々は過ぎ去る
その季節もいまだ長く
永遠のように思われる

たしかに日々は過ぎ去る
この橋の上から眺める川の流れのように
だが、私はまだ流木のように
川底に執念深くしがみつく

流れのひとつひとつを
躰に刻みつけるために
私はまだ覚えている

清流を、激流を、濁流を


Les jours s'en vont je demeure

3/9/2023, 1:25:49 PM