「何をしているんですか?」
僕が訊くと、
「失恋に蹴りをつけているんです」
会話をしたこともなかったクラスメイトは、紙切れの入った瓶を片手に言った。
【波にさらわれた手紙の行方】
「情けないと思いますか?」
君は自嘲気味に笑った。
「このボトルの中、お察しの通り、今日黒板に晒されていたものです」
泣きたそうな顔だった。
「ゴミ箱に捨てるには、思い入れがありすぎて。おかしいですよね。クラス中、学校中から笑われるきっかけになったものなのに」
君が瓶を持った手を振りかぶった。僕は何もできない。君がいじめ紛いの仕打ちを受けるのを、どうにもできなかったように。見ていることしかできない。
「……ずっとずっと海の向こうに行って、二度と、返ってこないでね」
瓶が君の手から離れる。どこか既視感がある光景だった。聞き覚えのある言葉だった。
君から誰かに向けたラブレターが晒されていた時、僕は心配より先に、悲しかったのだ。僕の気持ちは一方通行だと知って。なんて身勝手な話だろう。
「……えっ!?」
だから、海に向かって走った。波によって取り返しがつかなくなる前に、着衣のまま水面に潜って、死に物狂いで瓶を掴む。
「え、な、何して……」
僕には君の気持ちが分かる。……なんて言うとおこがましいけれど、僕も君が来る直前、同じことをしていた。だから、分かる。押しては返す波に、「好きだよ」の言葉に「好きだよ」を返してくれるような、そんな展開を期待してしまう気持ち。二度と返ってくるなと思いながら、報われることを望んでしまう気持ち。
「……こんなに綺麗なものが波なんかに取られるのは、もったいないでしょう」
僕のような身勝手な人間が海に放ったものなど、返ってこなくてもいい。けれど君は、愛した分だけ愛されるべき人だから。波が、駆け寄ってきた君の爪先を撫でた。
8/3/2025, 9:56:40 AM